1. なぜ桃の節句と呼ばれる?
1-1. 節句とは、季節の変わり目
桃の節句とは、一年の季節の変わり目の日である五節句のひとつです。
「上巳(じょうし・じょうみ)の節句」とも呼ばれます。
五節句とは、元々は奈良時代に中国から伝わった5つの季節の変わり目の日のことをいいます。
この季節の変わり目の日には、無病息災や豊作を願い、厄払いや神様に季節のお供え物をする風習がありました。
当初、それぞれの季節の節句はもっと数多くありましたが、江戸時代に特に大事な5つの節句を「五節句」とし、儀式を行う「式日(しきじつ)」として定められました。
・「人日の節句(七草の節句)」(1月7日) ・「上巳の節句(桃の節句)」 (3月3日) ・「端午の節句(菖蒲の節句)」(5月5日) ・「七夕の節句(笹竹の節句)」(7月7日) ・「重陽の節句(菊の節句)」 (9月9日) |
1-2. 旧暦3月3日は桃の花を飾っていた
現在の3月3日は梅の花の季節ですが、旧暦3月は現在の4月にあたります。ちょうど桃の花が咲き始める季節です。
そのため、旧暦でお祝いしていた時代、上巳の節句には桃の花を飾っていました。
1-3. 桃は魔よけ厄除けの食べ物
桃は古来より、魔よけの効果があり邪気をはらうとされていました。
昔話でよく知られる桃太郎は、桃から生まれた桃太郎が鬼を退治します。
古事記では、黄泉の国から逃げるイザナギノミコトは、桃を投げて鬼から逃れたという描写があります。
日本では古来から、桃は鬼(災い)を退ける魔よけや厄除け、邪気祓いの意味があったことがわかります。
1-4. 桃は百歳(ももとせ)の長寿を願う
また、長寿のことを「百歳(ももとせ)」というように、桃には長寿について縁起の良い食べ物とされていました。
中国の西遊記の記述でも、桃は不老不死の食べ物として扱われており、中国でも長寿をつかさどる縁起のよい食べ物とされていたことがわかります。
このことから、桃の花が咲く時期に行う上巳の節句は「桃の節句」と呼ばれるようになったといわれています。
1-5. 桃の節句とひなまつりは同じ意味
桃の節句とひなまつりは、同じ意味の言葉です。
元々は中国から伝わった「上巳の節句」が日本で広まるうちに、だんだんと「ひな人形」を飾る風習が生まれ、ひなまつりと呼ばれるようになりました。
2. 桃の節句の由来は?
2-1. 人形を川に流す、お祓いの儀式
流し雛
中国から五節句が伝えられた平安時代、桃の節句は無病息災を祈るお祓いの儀式でした。
陰陽師をよび神様にお供えをし、「人形(ひとがた)」や「流し雛」を身代わりとして、病気や穢れを背負ってくれるよう願いを込めて川に流しお祓いをしました。
このお祓いの儀式はのちに、詩歌などの要素を取り入れた「曲水の宴(きょくすいのうたげ)」と呼ばれる儀式になり、現在でもいくつかの神社で執り行われています。
一方同じころ、平安貴族のお姫様たちの間で人形遊びが流行り、「ひいな遊び」とよばれるおままごとのような遊びが行われていました。「ひいな」とは雛の古語で、「小さくて可愛らしいもの」という意味です。
お祓いの行事である「流し雛」と「ひいな遊び」がしだいに結びつき、現在のような「女の子の成長と健康、幸せを願う儀式」としての桃の節句の習慣ができたと考えられています。
2-2. 江戸時代には華やかなひな人形が登場
江戸時代になると、桃の節句は女性のお祭りとして認識されるようになり、京都御所や大奥で大規模なひなまつりが行われ、地方にも広まりました。
また、女の赤ちゃんの誕生を祝う初節句の風習も生まれ、桃の節句の風習はますます盛んになっていきました。
ひな人形を家に飾るようになったのも、江戸時代になってからです。ひな人形は「人形(ひとがた)」であり、女の子の枕元に飾っておくことで、代わりに穢れや災いを持ち去ってくれると考えられました。
最初のうちは簡素な造りであったひな人形ですが、次第に豪華なひな人形が作られるようになり、そのあまりの華やかさから幕府で華美なひな人形を禁止するお触れが出ていたほどです。
豪華になったひな人形は川に流すことなく、飾った後はお祓いをして家にしまっておくようになったといわれています。
また飾られる人形の数も増え、寛政年間(1750年頃)には二段、明和年間(1770年頃)には三段と、複数段の豪華なひな壇が飾られるようになりました。
2-3. 現代の桃の節句
現在の桃の節句は、女の子の成長と健康、幸せを願い行われるお祝いの行事です。ひな人形を飾り、ひなあられやひしもちを食べます。
女性を対象にしたアンケートでは、女性全体のうち60%がひなまつりをする予定があると答えた一方、女の子がいる家庭では80%近くの方がひなまつりをする、と答えています。
(出典:リビング暮らしHOW研究所「ひな祭りについてのアンケート」)
3. 桃の節句には何をする?
(出典:E・PAGE「3月3日は桃の節句、ひな祭りはどんなお祝い事をする?」)
3-1. ひな人形を飾る人が最多
桃の節句にはひな人形を飾る人が28%と最多です。
ひな人形は、女の子の身代わりとして、穢れや災いを背負ってくれるといわれています。
3-2. 桃の節句の行事食を食べる
ひな人形に次いで多かったのが、ちらし寿司などやはまぐりのお吸い物を食べると答えた人たちです。
ひなまつりの行事食を食べる人という点では、ひな人形を飾る人より多く、合計で半数近い人がひなまつりにちなんだ食事をするようです。
4. ひな人形の飾り方は?
4-1. 立春から3月3日にかけて飾る
ひな人形を飾るのは、一般には立春(2月4日頃)から3月3日頃にかけてといわれています。
「3月3日を過ぎたらすぐに片付けないと良縁を逃す」と聞くこともあるかもしれませんが、もちろん俗信です。なかには旧暦(4月上旬)までひな人形を飾る地域もあります。
また地域によっては、ひな人形を飾るのは二十四節季の「雨水」(2月19日~)から啓蟄の日(3月6日)がいいともいわれています。
なお、前日に飾るのは「一夜飾り」と呼ばれ、縁起が悪いといわれています。余裕をもって飾りましょう。
4-2. ひな人形それぞれの意味
ひな人形は、春のある日、京都御所の紫宸殿で行われた宴の様子を表しているといわれています。
①お内裏様 お雛様
最上段に並べられる男雛と女雛の人形です。
男雛が向かって左側、女雛は右側に並べますが、京都では京都御所にならって逆に並べられます。
②三人官女
3人組の女官です。
向かって左から加銚子、三方、長柄の銚子を持ちます。
間には高杯(たかつき)が並べられ、桜もちなどが飾られます。
③五人囃子
五人の雅楽の楽人を飾ります。
向かって左から太鼓、大皮鼓(おおかわつづみ)、小鼓、笛と並び、扇を持つ謡い手が一番右になります。
④随身(ずいしん)
四段目は随身を飾ります。
お内裏様を支える左大臣、右大臣です。
間には菱餅や掛盤膳(お膳)を飾ります。
⑤仕丁・衛士
五段目には仕丁や衛士など、お内裏様のお世話役を飾ります。
お祝いでお酒を飲み、一人は笑い、一人は泣き、一人は怒っています。
酔ったしぐさを差す「三上戸(さんじょうご)」の語源であるといわれています。
左右両脇には桜(左近の桜)と橘(右近の橘)を飾ります。
⑥嫁入り道具・お輿入れ道具
六段目・七段目には嫁入り道具(たんすや鏡)やお輿入れ道具(重箱や牛車)を飾ります。
4-3. 片づけるときは湿気に注意
ひな人形を片付けるときはカビ対策のため、なるべく天気が良く空気の乾いた日に片づけるようにしましょう。
飾り終えたらすぐに片づけた方がよい、といわれますが、俗信ですので気にしなくて大丈夫です。
人形の顔や手に触れるとシミになってしまうので、薄手の手袋をつけて作業するのがおすすめです。
5. 桃の節句の食べ物は?
5-1. 菱餅(ひしもち)
ひしもちは、桃色、白色、緑色の三色にかさねられた餅です。
雪の下のヨモギが芽を出し、雪の上に桃の花が咲く春の景色を表現しています。
ヨモギは、生命力を象徴しているといわれています。ひし形には心臓を表しているとも、邪気をはらうための矢じりを模しているともいわれています。
5-2. ひなあられ
ひなあられは、ひな人形をもって出かける際に、外でもひしもちを食べられるように変形した食べ物であるとされています。
そのため、一般にはひしもちと同じ三色が中心です。
5-3. はまぐりのお吸い物
はまぐりは、二枚の貝が同じでないとぴったり合わないことから、夫婦和合の象徴とされています。
桃の節句では、良縁が見つかりますように、との願いを込めてお吸い物にして食べます。
5-4. ちらし寿司
ちらし寿司はお祝い事の定番メニューです。関西ではばら寿司ともいいます。
日本では昔からお祝い事は共食(神様にお供えした後みんなで食事をする)をする文化があったため、同じかまで炊いた料理を参加者全員で食べます。
ちらし寿司は長寿を意味する海老や、財宝を意味する錦糸卵が入った縁起物ですが、地域によって色々な縁起物が入っているのが特徴です。
最近ではちらしずしの代わりに、てまり寿司を用意する場合もあります。小さな丸いお寿司はかわいい女の子のお祭りにぴったりです。
5-5. 白酒(しろざけ)
白酒とは蒸したもち米にみりんや米麹に焼酎を混ぜて一か月程熟成させた後、すりつぶして作られたお酒です。
昔は「桃花酒」といい、盃に桃の花を浮かべて桃の節句に飲んでいました。
しかし、江戸時代になると、鎌倉町の豊島屋酒店という酒屋さんが出した白酒が、女性にも飲みやすい、と評判になり桃の節句の定番商品となりました。
ただし、白酒は甘酒とは異なり、アルコール度10%ほどあるお酒なので、お子さまが飲むのは厳禁です。代わりにアルコール成分が含まれない甘酒を用意するなど、工夫しましょう。
5-6. 桜もち
ひなまつりには桜もちを食べる風習がありますが、由来ははっきりしません。
しかし、ピンク色の可愛らしい外見から、春の女の子のお祝いにはピッタリです。
関東風の小麦粉を使った桜もちは「長命寺」と呼ばれ、関西風のもち粉をつかった桜もちは「道明寺」と呼ばれているなど、東西で違いがあります。
5-7. 草餅(よもぎもち)
よもぎもちは、中国では上巳の節句の際に、母と子が健やかに育つように母子草のもちを食べていたことに由来します。
日本に伝わった際、よもぎは邪気をはらう力があるとされていたので、日本ではよもぎもちになったといわれています。
5-8. 子供が喜ぶデザート
女の子のお祝いであるおひなまつりの日には、お子さまが喜ぶケーキやプリンなどを用意してもとても可愛らしい思い出になります。
洋菓子店などではひなまつりの特別なデザートが店頭に並びますので、現代的なひなまつりでお祝いするのもよいでしょう。
6. 初節句には何をする?
6-1. 赤ちゃんの初めての桃の節句
初節句とは、赤ちゃんが生まれて初めての桃の節句のことです。
お祝いの仕方は毎年の桃の節句と一緒ですが、初節句では両家が集まって食事会をするなど、特に盛大にお祝いをします。
6-2. 9割の人が初節句のお祝いをする
アンケートによると9割近くの人が、初節句のお祝いをしています。
(出典:ベビーカレンダー「もうすぐひな祭り!女の子がいる家庭へ「初節句」に関する実態調査を実施。」)
6-3. ひな人形を準備する
初めての桃の節句ですので、ひな人形を準備します。
ひな人形は、ひな壇が多いものは高価ですが、設置場所の大きさや収納場所を考えて購入するようにしましょう。最近では、現代の住宅事情に合わせたコンパクトサイズのひな人形もたくさんあります。
昔はお母さんの両親が用意するのが習わしでしたが、現在は誰が購入するかの決まりはありません。両家で共同で購入するケースもありますので、話し合って決めるのが良いでしょう。
6-4. お祝いの食事会をしましょう
初節句には赤ちゃんを囲んでの食事会を開きます。
必ずしも食事会をする必要はありませんが、昔はひな人形やお祝いを贈ってもらったお礼の意味も含まれていました。
両親と赤ちゃんでの食事会でも問題ありませんが、両家祖父母や、お祝いをいただいた方を招待するのもよいでしょう。
6-5. 1歳になってからでもよい
赤ちゃんの誕生日が3月に近い場合は、1歳になってから初節句のお祝いをしても大丈夫です。
生まれて数か月間は、赤ちゃんもお母さんも体調が不安定な場合もあります。無理の無いようにお祝いを翌年に延期するようにしましょう。
6-6. 初節句にかかった費用は20万円前後が最多
初節句にかかる費用は20万円前後が最多となりました。節句飾り(ひな人形)の金額によって大きく違ってきます。
しかし、節句飾りは両家で準備する場合も多いので、家族で相談してみましょう。
(出典:ベビーカレンダー「もうすぐひな祭り!女の子がいる家庭へ「初節句」に関する実態調査を実施。」)
6-7. 初節句のお祝いの相場は?
祖父母から初節句のお祝いを贈る場合は、5万円~10万円が相場ですが、節句飾り(ひな人形)の金額を含める場合は50万円以上になることもあります。
節句飾りは両家で共同で購入するケースも増えているので、家族でよく話し合いましょう。親戚からお祝いを贈る場合は5,000円~10,000円程が相場です。
のし袋を使う場合は紅白の蝶結びの、水引がついたものにしましょう。
6-8. お祝いのお礼は1/2~1/3程度のもの
初節句のお祝意をいただいた際のお礼は、おおよそ1/2~1/3程度の金額のものをお返しするようにしましょう。
初節句の内祝いのギフトサービスを利用すると便利です。
参考:ゼクシィ内祝い
お礼として食事会にご招待した場合は、内祝いは必ずしも必須ではありません。
しかし、お菓子などの簡単な贈り物に赤ちゃんの写真を添えて送ってあげると、感謝の気持ちが伝わります。
7. まとめ
いかがでしたでしょうか。
桃の節句は、人々の穢れを祓うお祓いの儀式と、女の子の人形遊びが結びついた神聖なお祭りです。
しかし、細かな取り決めはなく、ひな人形を飾るだけでも、ちょっと特別な食事をするだけでも桃の節句の行事になります。
思い思いの形で、桃の節句を楽しんでくださいね。
<参考資料>
小林玖仁男(2008)「日本の室礼」求龍堂
E・PAGE|3月3日は桃の節句、ひな祭りはどんなお祝い事をする?
ベビーカレンダー|もうすぐひな祭り!女の子がいる家庭へ「初節句」に関する実態調査を実施。
よくある質問
[質問]桃の節句とは何ですか。 |
[回答]3月3日に女の子の成長と健康を願って行うお祭りです。ひなまつりともいい、ひな人形を飾り、菱餅やひなあられを食べます。 |
[質問]なぜ桃の節句というのですか? |
[回答]旧暦では現在の4月、桃の咲く時期に行っていました。また、桃は魔よけや長寿の縁起物とされていたためです。 |
[質問]初節句とは? |
[回答]赤ちゃんが生まれて初めて迎える桃の節句のことです。この日に備えてひな人形を準備するなど、特に盛大にお祝いをします。お祝いの後、家族そろって食事会を行います。 |